多焦点眼内レンズは遠近両用メガネのように遠くも近くも見える眼内レンズです。この5年ほどの多焦点眼内レンズの発展は目覚ましく、術後の満足度は高くなってきております。5年前までは2焦点レンズをうまく組み合わせて遠くから近くまで見えるように左右で眼内レンズの度数を若干ずらして手術するmix and match と呼ばれる特殊な方法で患者さんの望む見え方に応えておりましたが、現在では3焦点のレンズの登場で、遠方、中間距離、近方に焦点を合わせることが可能になり、特殊な技法を用いることなく、術後の満足度もより高いものになっています。
当院では、これまで院長が使用してきたレンズの中でも特に患者さんの満足度が高かったパンオプティクス(Alcon社製)とファインビジョンの2種類を採用しております。
多焦点眼内レンズは現在も発展中であり、5焦点のレンズも使用され始めております。
5焦点レンズに関しては国内導入している施設の情報を取り入れ、より良いものと判断される場合には、いち早く取り入れていく予定です。
パンオプティクス(Alcon社)
米国で2017年に発売され、国内では2019年4月に認可されました。
パンオプティクスは、遠方視力を犠牲にすることなく、近方距離(40cm)から中間距離(60cm)において、より快適な見え方を提供します。ほとんど眼鏡なしで快適な日常生活を送ることができます。高い光利用率(88%)を持ち、すべての距離において鮮明な見え方ができるように設計されています。また、患者さんの瞳孔径による見え方のパフォーマンス低下を軽減するレンズ設計となっており、患者さんの満足度が高い理由の一つとなっています。
多焦点レンズの欠点として乱視が強い場合に視力が出にくい点があったのですが、乱視矯正も同時にできるトーリックレンズも選択でき、より多数の患者さんに適応できるようになりました。また、トーリックレンズの場合、挿入したレンズの眼内での安定性が非常に重要になのですが、Alcon社製の眼内レンズは安定性が高いことで定評があります。その点でも術者として非常に安心して患者さんにお勧めできるレンズとなっています。
デメリット:夜間運転時にはハロー、グレア、スターバーストと呼ばれる見えづらい現象が起こることもありますので、夜間の見え方にこだわる方は事前にご相談いただく必要があります。
Finevision(PhysIOL社)
2011年に、それまで不可能であった遠く、中間、手元の3つの距離にピントが合うトリフォーカル眼内レンズとして発売されました。以来爆発的に普及し、ヨーロッパでは2焦点レンズを越える高い人気のある眼内レンズとなりました。発売から時間が経ち長い使用経験も蓄積されています。パンオプティクス(Alcon社)と比べると近方の焦点が手元30cmとなっており、スマホ時代の現代により適したレンズといえるかもしれません。光量のロスは14%で、光量配分は、遠方40%、中間15%、手元30%です。瞳孔径の影響も受けにくく満足度の高いレンズです。乱視矯正も可能でパンオプティクス同様、レンズの安定性も問題なく、安心なレンズです。
デメリット:ハロー・グレア・スターバーストと呼ばれる見えづらい現象が起こることもありますが、気にならない方がほとんどです。